当研究室での「卒業研究」あるいは「アクティブ・ラボ」の受講を考えている学部生の皆さんへ

薬化学研究室では、「創薬化学(メディシナル・ケミストリー)」ならびに「ケミカル・バイオロジー」の主に二つの分野で研究を行っています。「ケミカル・バイオロジー」とはあまりなじみがない分野かもしれませんが、20世紀後半以降急激に進化した分子生物学的な手法に加え、有機化学的な手法を駆使して生体内分子の機能や反応を分子レベルで解析する研究分野をさす言葉です。21世紀に入って勃興してきた新たな生命科学の中心的学問領域の1つであり、医学や生物学における根源的な問題を発掘し、取り組み解決するための強力な研究手法となっています。そのうえ、医薬品のタネとなる生理活性物質が必然的に生み出される研究でもあることから、現代の創薬研究において重要な研究分野でもあります。

現在、薬化学研究室ではがん固有の環境(「がん微小環境」と言います)に着目し、このような環境に関わる特徴を光で検出するような診断薬(イメージングプローブ)の開発を行ったり、がん微小環境特異的な代謝反応を修飾して抗ガン剤に結びつくような薬の開発を行っています。まず、望みの機能(たとえばがん微小環境の重要な特徴である「低酸素」に応答して光るような化合物)をもつような化合物を(計算化学の力も活用して)考えて、実際に有機合成化学の力で合成します。合成に成功したら、所望の機能を持っているかどうか(今回の場合ですと、最初は光らないけど、「低酸素」環境においてはじめて光るようになるようになるか?)の実験を行い、得られた結果を評価してさらに良い性質をもつと予想される化合物を考え出して合成・評価実験を繰り返します。試験管内での評価で良い化合物が選抜されれば、実際の生体(まずは培養細胞系)での評価まで研究室内で行って、そのうえで実際の診断薬・医薬品への橋渡しにつなげられるように、他研究室と共同で動物実験を行ったり企業への導出を行っていきます。また、最近では神経変性疾患を標的とする研究も開始しています。

薬学部での研究は、基礎研究を中心に従来行われてきた経緯があります。薬化学研究室が属する有機化学の分野でも、新規な合成手法の開発など有機合成化学の進歩に貢献する研究が従来活発に行われてきました。そのような研究室でも、薬学部の臨床志向の流れを受けて「創薬」の看板を掲げる研究室が増え、生物系の研究室にこれまで研究室内で蓄積してきた化合物を提供して生物評価をしていただくことからスタートする創薬研究を行っているようです。「餅は餅屋」という諺もあるように、それぞれの研究室の得意とする分野に特化して分担して進めていく形もあるとは思いますが、私たちは異なる研究分野の手法を一つの研究室内で平行して密接に進めることにより、化合物の「設計・合成」と「評価」という創薬やケミカル・バイオロジー研究の過程で重要なプロセスをスムーズに遂行し、新たな観点から見出す価値観の創出が可能になると考えています。薬化学研究室も有機化学系の研究室として、現代の有機合成化学の手法を着実に活用して所望の性質を有する低分子有機化合物を合成し、そのうえで研究室内で培養細胞系を駆使した一定のレベルの分子細胞生物学的な生物活性評価試験(タンパク質等の評価)を行っていますが、このような一気通貫型の研究を行うことのできる大学の研究室はさほど多くはありません。神戸薬科大学 薬化学研究室はその一つです。多様なバックグラウンド・研究経歴を持つ複数の教員によりこのような学際的な研究を遂行しています。

新しい化合物なくして新薬はありえませんが、化合物に薬効情報が加わってはじめて薬のタネに成長します。実際に化合物を自分の手で作り、自分の手で生物活性評価まで行って化合物に命を吹き込み、クスリにつなげられるような研究を行ってみませんか?

研究面では化学と生物を主に行うことになり、動物実験は行っていません(培養細胞レベルまでです)。加えて生物物理学的な研究も行っており、これらの研究を通して勉強も行います。従って、主として「物理・化学・生物」および「薬理」分野に関しては、国家試験対策にもつながります。

なお、薬化学研究室では、以下のように研究室内でのミーティング・勉強会を開催しています。

1.研究進捗報告会(週報、研究を行っている研究室員全員が週に一度発表して研究の進捗を共有します)

2.リサーチ報告会(学部生は実務実習に出かけるタイミングなどで、卒業研究期間内に2~3回程度行っています)

3.英語論文の抄読会(こちらも学部生は卒業研究期間内に2~3回程度行っています)

4.学会発表や卒業研究発表会にむけた練習会(適宜)

5.外部の研究者をお招きした講演会(不定期に開催)